そもそも。
鍵盤楽器というのはとても制約の多い楽器です。
なにしろ、1オクターヴをなんとかして12の音に割り振って調律しなければならないから。
歌はもちろん、弦楽器や管楽器は、いくらでもその間の音を出せますよね。
でも鍵盤は動かせない。
だからアンサンブルをする時は、周りの皆さんが鍵盤楽器の音程に合わせて下さるというわけです・・・。
1オクターヴをいかに12音に割り振るか、というのが調律法のテーマです。
現代ピアノで使われる平均律は、12音の間隔を全て均等に調えたもの。金太郎飴みたいな。
しかし全て均等では面白くない、いろいろな間隔をつくって、和音ごとに違うカラーを出せるようにしようというのが、めくるめく調律の世界。
切るたびに金太郎の顔が違ったら、そりゃ面白いですよね。
古今東西、様々な調律法が編み出され、試されてきました。
この調性の曲を弾くならこの調律法が良いよね、あの時代の曲を弾くならこれ、みたいに選んだり考えたりするのです。
しかし、より美しい響き(純正)を求めていくと、格差(ひずみ)が生まれます。
つまり、綺麗に聴こえる和音を生み出すためには、どこかの音が犠牲となって美しい響きを捨てなければならない。
となると、綺麗な部分だけで弾けるならいいけれど、そうでない音が出てくる曲は弾けなくなってしまう。
そこで発明されたのが、この分割鍵盤です!
1オクターヴ12音を、なんと15音、16音、さらには19音まで増やして、間を埋めてしまおう!という、16~17世紀の人々の柔軟なアイデアから生まれた鍵盤。
これを使うと、例えばレ♯とミ♭、ソ♯とラ♭のような、本来鍵盤楽器上では「異名同音」であった音を「異名異音」として使い分けることができるのです。
まぁ、演奏するのはちょっとばかり難しくなりますが・・・調律の手間もだいぶ増えますが・・・でも美しい響きが格段に増えます!
この写真は、3月1日に行われた<分割鍵盤研究会コンサート>に集った、現代の製作家による楽器たち。
アトリエ響樹の加屋野さんから写真お借りしました。
左下の15分割チェンバロを、5月8日(金)のDuo Maris vol.4《Chiaro Scuro ~ 初期イタリアンバロックの試み》で演奏します。
調性や和音の動きに伴う、響きや感情表現の変化を、何よりも大切にした時代の音楽。
鍵盤楽器の「制約」を乗り越えて、追い求めます!